2020.08.01

イスラエルが伝え続ける「命」の物語

ホロコースト博物館「ヤド・バシェム」で生きることを考える

Photo By Yad Vashem HP

「ホロコースト」とは、ナチスドイツがユダヤ人らに対して組織的に行った大量殺戮のことです。

国家的に行われた「絶滅政策」によって亡くなったユダヤ人の数は約600万人と言われていて、現在も捜索が続けられています。

日本でも「アンネの日記」「シンドラーのリスト」「杉原千畝」の本や映画で触れた人も多いのでは?

けれども私はここで、そんな知識をゼロにするほどの衝撃と向き合いました。

ヤド・バシェムが人類に伝えたい「警笛」

Photo By Yad Vashem HP

公認ガイドから「ヤド・バシェムが伝えたいのは被害者の視点ではない。」と語られたことが印象的で、「可愛そう」「なんてひどいの!」という見方をすることなく、謙遜に学ぶことができました。

「全ての人が、加害者にも被害者にもなり得る」

ヤドバシェムのテーマです。

ミュージアムでは、ホロコーストがどのようにして先進国ドイツで正当化されていったのかが、歴史と世論の流れを追う形で分かりやすく紹介されています。

展示や紹介されている何人もの証言とその足跡を追うことで、「他人事」ではなく、私にも手渡されている遺産として受け取る体験となりました。

歩みを進めるほどに見えてくる被害者と加害者、双方の顔。

どちらも自分と変わらぬ普通の人であることには言葉もありませんでした。

Photo By Yad Vashem HP

ここには「諸国民の中の正義の人」のための森があります。

一本一本植えられた木の根元に刻まれている名は、自らの生命を危険に晒してユダヤ人を救った人たちのもの。

彼らの困難な物語が語られるたびに感じた魂の震えを表現できません。

「私」という人間ははすぐに裁判官や審判になりたがる。

物事を良い悪いと批判し、簡単に口を挟むけれど、自分と愛する人の命を天秤にかけられた瞬間、同じことは言えなくなる。

私の中の常識や良心というものがいかに脆く、頼りないかという事実に恐ろしくなりました。

驚くことに、ここでは被害者であるユダヤ人を正当化することはしません。

被害者もまた、同じように「生き残るために」という非情で残酷な選択の中にいるという事実がありのまま語られます。

生きるために何を捨てるのか?

そのタイミングに命がかかっている…。

ある人は、家と国を捨て、またある人は人としての心を。

ある人は家族を、友を、希望を捨て…。

しかしそんな地獄の中で「絶望や憎しみ」を捨て、希望を持って生きた人たちに出会ったあの瞬間を私は生涯忘れないと思います。

ホロコースト研究の最前線施設

Photo By Yad Vashem HP

この施設は犠牲者を追悼するための記念館だけではなく、今尚続くホロコースト研究の最前線施設でもあります。

(公文書保管、出版、教育、国際研究学校、ユダヤ教の会堂、記念碑、関連芸術作品の保存と展示など・・・広大な敷地内に様々な施設が併設。)

Photo By Yad Vashem HP

年々減ってゆく歴史の生き証人「ホロコーストサバイバー」たちの証言を残す活動や、未だ見付かっていない被害者家族の捜索活動も行われています。

被害者ひとりひとりの名前と人生を追い、刻み、残そうとする果てしない取り組みです。

ヤド・ヴァシム公認ガイド

Photo By Yad Vashem HP

博物館内は入場無料ですが、初めてならガイドの有無は天と地の差。

深いテーマなのでガイドを付けることをおすすめします。(ヤド・ヴァシェムHPから要予約)  

実は、ヤド・ヴァシェムには「石堂ゆみさん」という日本人唯一の公認ガイドがいらっしゃいます。

彼女はイスラエルでジャーナリストをする傍、無償でこのミュージアムのガイドをされています。(ヤドバシェムの働きへの献金としてガイド料は全額寄付)

ただ真っ直ぐに「伝えたい」という思い一つで語る言葉には力がありました。

最後に…

Photo By Jewish week the Times of Israel 

ここヤド・ヴァシェムは、ユダヤ人が体験した歴史の闇…ではなく、次の命への問いとして繋ぐ世界の遺産だと思います。

深いテーマに一歩ずつが重くて、本当に疲れました。

だけど、ここを素通りしなくて本当によかった。

ヤド・ヴァシェムで私の中に刻まれたものは決して悲しみや憎しみではなく、「命」でした。

ぜひ、ガイドを依頼して一日ヤド・ヴァシェムで過ごしてみてください。

ヤド・ヴァシェム公式HP https://www.yadvashem.org

入場無料です。有料の英語のイヤホンガイドのレンタル有り。

ガイド(有料)の予約もここから可能。

アクセス

Photo By Yad Vashem HP

ライトレールの「Har Herzl(ハル・ヘルツェル)」(現在終点)から徒歩10分

(数は少ないですがシャトルバスもあります)