街中から小麦が消える?!「ペサハ」の祭り
街中から小麦が消える?!「ペサハ」の祭り
「ペサハ」(過越しの祭り)

3-4月頃の7日間祝われる「ペサハ」では、街中のパンや小麦製品が消え、パッサパサの大判クラッカー「マッツァ」を主食に過ごします。
ペサハの前日までに家中を大掃除して、徹底的に小麦を家から出し、親の仇のごとく残ったパンを道端で焼いて燃やす光景も…

なんでそこまで?!の、ペサハ(過ぎ越し)の物語を紹介します。
ペサハの物語
この話は、ユダヤ人のアイデンティティの根幹を成すもので、これを知らずには始められません。
他のお祭り(シムハットトーラーやスコット)も関係してくるので、知らない人は要チェック!
もしかしたら「モーセの十戒」の映画を見た人もいるかもしれません。
430年の間エジプトの奴隷だったイスラエルの民を救うため、神が選んだのがモーセさん。紅海を割って海を渡り、神の民として自由になったという「エジプト脱出」のストーリーです。
ちょっと突然のファンタジー?!ですが、イスラエルの神とユダヤ民族の関係って、日本の神信仰とは大きく異なっていて文化的にも非常に興味深いです。

13世紀頃、エジプトの地ではユダヤ人たちが奴隷として苦役に苦しんでいました。
多産で多くなりすぎ、増え広がるユダヤの民を恐れたファラオは、生まれてきたユダヤ人の男子は全て殺すようにと命じます。(こわっ)
その頃に奴隷の子として生まれたのがユダヤ人モーセ。
しかし、母親はモーセを殺すことができず、(そりゃそうだ。)籠に入れてナイル川に流します。
それを拾ったのが、なんとファラオの妃!モーセはエジプトの宮殿でスクスク育ちます。

一方、イスラエルの民への当たりが益々激しくなるファラオ。
奴隷たちの嘆きを聞いたイスラエルの神は、モーセの前に現れると、民をエジプトから救い出すようにと命じます。
モーセはファラオにユダヤ人を解放するようにと要求しますが、聞くわけないですねぇ。笑
そこで、イスラエルの神はエジプトに10の災いを起こし、徹底的にビビらせます。
エジプト VS イスラエルの神です。
ファラオは災いの9つまではビビりながらも、「奴隷解放なんてありえん!」と突っぱねますが、10番目の災いは…残酷なものでした。
「国中の長男が死ぬ。」これが10番目。
神が命じた”救いの条件”をその通り行ったユダヤの民の家は、10番目の災い(長男の死)を「過ぎ越す」ことができた・・・。これが過ぎ越しの祭りの起源です。
国中の長男が死んだ晩、エジプト全土で死者のいない家はなかったと記されています。ファラオの長男も然り…。
あまりのことにファラオの心は折れ、モーセとユダヤの民にその夜のうちにエジプトから出て行ってくれと言い渡します。
この時、ユダヤの民は追い出されるようにしてエジプトを出たので、旅に必要なパンを発酵させている暇がなく、種無しパン(マッツァ)と呼ばれる薄いパンを焼いて持って行きました。
日本人なら米を炊いてる暇がなくて、せんべい持ってきた感じでしょうか。(なんか違うけど・・・いいか)笑
ところが、我に返ったファラオは逃げたユダヤ人を戦車を率いて追いかけます。
逃げたユダヤの民の数は女と幼児を除いて60万人!!!!!!!
60万の労働力を手放すってかなりのことですもんねぇ…ピラミッドが建たない。笑
(というか、なんで憎き奴隷ごときの為に大打撃受けねばならんのじゃ!自由にしてなるものか!って感じでしょうか。)
怒りで狂ったエジプト軍がものすごい勢いで迫ってくる中、前に広がる海!絶体絶命!
その時、海の水が割れ、海底の地面が現れ、イスラエルの民は「歩いて」紅海を渡り、逃げ切ったのです。
奇跡のスケールでかすぎ。。。。
ファラオは怖じけずそのまま紅海を渡ろうとしますが、海の水は勢いよく元に戻り、エジプト軍は沈んでしまった…と。
現在紅海のとあるポイントにはエジプトの戦車が沈んでいる跡!?と言われるものもあるとか?ないとか。信じるか信じないかはあなたし・・・いやいやいや!
都市伝説なんてレベルじゃないのがユダヤの祭り。「神はいる。なぜなら私たち(ユダヤ人)が生きているから。
(古代ロマンが気になる人はこちらのYouTube→https://youtu.be/SxShty5P6DY)
ペサハの晩餐
そんな訳で、神がイスラエルの民をエジプトから解放した「どでかい奇跡」をペサハは記念しているのです。
親から子へ、子から孫へと語り継がれ、記憶を繋いできたこの祭りは、各家庭で行われます。祭り当日に商売しようなんて人はいません。祭りの時間までに店を閉め、仕事をやめてそそくさと家に帰ります。
街は静まり返り、耳をすませば各家庭の窓から楽しげな歌声や話し声と、漂ってくるごちそうの匂い。こんな時、イスラエルでは家族を中心に世界が回っている。と感じます。
ペサハの1日目の食事と7日目の食事は特別で、エジプト大脱出ストーリーを子供達に伝えるために特別な晩餐を行い、シナゴーグ(会堂)や西壁へ行く人もいます。
イスラエルのお土産でよく見かけるこの食器はペサハ用のもの。
イスラエル人たちと過ぎ越しの晩餐を過ごしましたが、家族で伝統を守る楽しそうな姿には感動しました。
伝統的なペサハの晩餐ではどんなに急いでもメインの食事にたどり着くまで1時間。(ごちそうだからと何も食べずに参加したらお腹ペコペコでしんどい)

各家庭こだわりの式次第があり、それが絵本だったり、美しい装飾のついた格式高いものだったりと様々!
決まった食事や祈り、ペサハの歌や子供達の宝探しゲームなど、お父さんを囲んだ食卓で始まります。
ペサハの食事の大筋はユダヤ人家庭ならどこでも同じですが、それぞれの家庭の色で楽しんでお祝いをしているのが印象的。

ペサハの晩餐では過ぎ越しのストーリーを体験型で追えるようになっていて、例えば、エジプトでの苦役を思い出すために、苦い葉っぱを塩水につけて食べる…とか、10の災いの数だけお皿にワインの雫を垂らす…などのイベントがあるのです。
わたしが参加した家庭では、この「苦い葉っぱ」を食べるシーンで、離散していたユダヤ人ならではの「うちはセロリよ」とか、「ウチはパセリよ」などと議論が始まり「毎年決着がつかないんだ」と笑っていました。
時々順番を間違えたりもしながら(笑)和気藹々と賑やかに進みます。
こうして子どもたちは、味覚や行動で自分たちの歴史を体に刻んでいくのでしょう。

そうしてお腹が空いて気が遠くなる頃、ご馳走の登場です!
ユダヤのお父さん、お母さんは本当に料理上手で、どこの家庭もレストラン。
信じられないくらいのご馳走が食べきれないほど並び、デザートまでもしっかりあります。
普段宗教的でない人たちも、伝統と文化を守る。
イスラエルの民のアイデンティティが家族の絆を深める姿を見た気がしました。
ペサハの晩餐(セダー)をのぞいてみたい人は↓
観光はできる?
さて…友人に招いてもらえる…ということでもないと、ペサハの体験はなかなか難しいかもしれません。
特に、お店や公園の開く時間が変わったり、土曜日ではないのにシャバットのように街がストップしたりするので要注意。
ペサハの期間に被ったら、祭りのスケジュールをしっかり確認しましょう!
「日没から始まる」ことも忘れずに!
でもペサハの期間は長期休暇でもあるので、イベントも多くて街は賑やかです。
「ペサハ」の過ごし方とグルメの記事はこちらから
ユダヤ教3大祭り「ペサハ」なんて初耳!のあなたも、あの有名なレオナルド・ダビンチの名画「最後の晩餐」は見たことありますよね?
これがまさにペサハの晩餐の瞬間を描いたものなんです。(ただし、食卓スタイルは西洋風アレンジ)
ユダヤ民族が古代エジプトでの奴隷生活から解放され、モーセの導きによって出エジプトしたことを記念して、3300年程前から現代に到るまで祝われているのです!
この期間の特徴で、イスラエルの美味しーいパンの代わりに主食となるのが「マッツァ」という特別なパン(というよりクラッカー)(というかパサパサした何か)。

これは、イスラエル人が古代エジプトから脱出するときのお弁当?用に、パンを発酵させて膨らませる時間がなかったことに由来します。
当時のことを記憶するために、イースト無し、発酵無しのカサカサマッツァを食べるのです。
イベント

人混みを恐れないのなら、ペサハの西壁で、祭司の祝福「ビルカット・コハニーム」を受けてみてはどうでしょう?
少なくとも一度は参加する価値があります。
この「祝福の祈り」は、毎週シャバットに各シナゴーグや家庭でも行われるのですが、年に2度、ペサハとスコットの祭りに毎年何万人もの人々が西壁に集まり、祭司の家系のユダヤ人たち(何百人も!)から歴史的な祝福を受けます。
両手を上げ、群衆の声が一つになる様子は特別な体験…!
3行の詩のような短い祈りですが、イスラエルで最も古いヘブライ文字として出土したのもこの祈りで、古代の昔から特別で力のある祈りです。
ただし!!
広場に確実に入るためにはか・な・り早めの行動を!
この日に旧市街の近くまで車で行くことはほぼ不可能ですので、覚悟して行きましょう。
私は何度かチャレンジして未だにたどり着けていません!(単に出発が遅い)笑
日時と時間は「THE PRIESTLY BLESSING (BIRKAT KOHANIM)+今年の西暦」で検索
ペサハのグルメ
パンと小麦(正確にゆうと小麦、大麦、オーツ麦、スペルト、ライ麦を含む発酵する物)が街から消え失せるペサハの期間ですが、知恵を尽くしたペサハグルメが登場するのもこの時期。
小麦を使わないパンだと、とうもろこしやタピオカ粉を使ったパン(反則感はある。笑)は温めるとモッチモチで日本人好み!私のお勧めはベーグル。
ファラフェルサンドも、小麦じゃないほうが美味しいのでは…とさえ思います。
注意:温めないとパサパサです。
クラッカーのような味のないマッツァをどう美味しく食べるか…。現代ペサハの永遠のテーマかもしれません。笑
こちらはユダヤのお母さんが作ってくれたマッツァボール入りスープ。

めちゃくちゃ美味しくてびっくり!あんなパッサパサのマッツァから溢れだすスープ!

他にもローストしたマシュマロやチーズをサンドしたり、ピザやラザニアに見立てたり、とマッツァを駆使した手料理はもはやマジックです。
奴隷時代のレンガ作りを思い起こすために作られるデーツベースのフルーツペースト「ハロセット」はみんな大好き。
こちらも各家庭こだわりの代物で、同じのを食べたことがありませんが、どれも絶対美味しい!!
コレを作るためにデーツペーストを大量購入する私。
ペサハの小麦なしおやつには、ココナツクッキーや「マカルーン」というタヒーナやアーモンドプードルのクッキーなどがあります。これがコーヒーのお供に最高!
ココナツ好きな私は年中あってもいいのにと思う。

この時期はネットでもペサハレシピ!と銘打って美味しいレシピの数々がシェアされています。ペサハにかける情熱と工夫がすごい。
ショッピング
イスラエルで売られている商品には、ペサハに食べて良いかどうかのマークがついています。
この期間マークがついていない物は布が掛けられて買えないお店も!
イースト菌と酵母入りの食品は全て食べないので、パンもパスタもスーパーには置いてありません。
なぜ?と思うものについてはペサハの許可マークがない為。
日程
3-4月頃の7日間祝われるペサハは、初日と最終日の日没からシャバットと同じように街中ストップ!公共交通機関も止まるので要注意です。
そしてもちろんその7日のうちに実際のシャバット(金曜〜)もあるのでややこしい!
特に気をつけたいのが、国立公園などの観光施設も祝日の前日は半日営業だったりとイレギュラーな動きをするので、予定を立てる時には「なるようになるさ。」と腹を括った方がいい。笑
もちろんイスラエルの友人にペサハディナーに誘われたら超ラッキーです!
お腹をペコペコに空かせて行くことをお勧めします。(ただしペサハの儀式が長いので、お腹空きすぎは修行。)
宿泊
長期の休みを利用して、海外・国内旅行も多くなる時期なので、航空券や宿泊先はいっぱい!予約は早めにとったほうが◎
ホテルはこぞってペサハのプログラムを用意していたりもします。
車を借りておいて、死海や大自然でのBBQやキャンプ、ハイキングなどを楽しんだりもしていますよ。
せっかくですから、この時期だけのペサハの雰囲気とグルメを味わってみては!
イスラエルで子育て
こんにちは♪
現在ヘルツェリアで日本人の主人と8か月の息子と生活をしているNozomiです。
イスラエルで妊娠、出産を経験してイスラエルの文化を再発見しました!
実はイスラエルはとっても子育てしやすい国なんです!
子どもも親も自由な子育て
イスラエルの出生率は日本の約倍。
日本 1.36 (2019年)
イスラエル 3.0 (2019年) 先進国の中ではトップクラス。
どこに行っても子どもや赤ちゃんがいっぱいいます!
息子をベビーカーに乗せてよくお散歩に行くのですが、同じようにベビーカーを押して歩くパパやママを曜日や時間に関係なく見かけます。
子どもも親ものびのびと子育てしているとイスラエルに移住してすぐ気が付きました。
「日本より子育てしやすい!」これはイスラエルに長年住まれて実際に子育てをされた日本人の方全員が言っていました。
空港でもショッピングセンターやレストランでも子どもたちは自由に歌ったり走ったり大きな声でお喋り!
それを見る周りの大人たちは何も言わないし、子どもたちの親でさえ注意することも叱ったりもしません。
日本で生まれ育った日本人の私は正直ビックリしました。
イスラエルってほんとに自由(笑)。
イスラエルは年中通してお天気がよくて毎日お散歩や公園で遊ぶことができるのも子育てするには良いですね!!
3月~11月ごろまではほぼ雨は降りません!
町ごとに大きな公園があるので、週末はみんな自由にランチやコーヒーなんかを持って芝生でごろごろしたり子どもたちと体を動かす遊びをしたり。
公園の大きな遊具の上には日よけがあるので日差しを心配せず遊べるようになっています。
協力し合う子育て
出産前後のサポートがしっかりあることもいいと思う点です。
私たちが住む市にはママをサポートをしてくれるボランティアの女性たちがいます。
実際にママやおばあちゃんを経験している人たちで、分からないことや不安なことをきいてくれます。
欧米諸国には産後赤ちゃんの健康状態などを診に家庭を訪問する「ミッドワイフ」の文化がありますが、それとは少し違います。
彼女たちは医療的な検診などをするのではなく、ママの心のサポートや赤ちゃんの健康のためのアドバイスをするような立場です。
私は産前最後の検診のときにクリニックの看護師さんから、外国人で近くに家族もいないからと直接ミッドワイフを紹介してくれてコンタクトをとりはじめました。
心身ともに不安定になりやすいママが独りにならないようにサポートがあるのはありがたいです。
特に私たちは言語的な問題などもあってたくさん助けていただきました。
彼女からの勧めで産後に息子を連れてママ会にも行きました。
広い公園で円になってミッドワイフの話を聞いたり分からないことを質問する会でしたが、ママ同士の交流にもなって楽しい時間でした。
家族や知り合い同士で子育てに協力し合う文化があると感じました。
みんな子育てについてポジティブな考えを持っている印象があります。
息子と外出して知らない人から話しかけられない日はありません(笑)。
遠慮もなくベビーカーをのぞき込む人もしばしば(笑)。
日本人の赤ちゃんが珍しいからかもしれませんが、可愛い!名前は何?とどの年代の人にも声をかけられます。
「困ったことがあればなんでもいってね」
ご近所さんやミッドワイフ、多くの友だちが言ってくれる言葉ですが、イスラエル人には本音と建て前なんてもんはないのでそう言ってくれるときはほんとに助けてくれて本気で気にかけてくれます。
私自身、初めての海外生活で出産子育てを経験していますが、周りに助けがあってとても子育てしやすい国だと思います!
profile
Nozomi
日本人の夫とイスラエルに移住して2年目。
イスラエルで出産を経験してママ奮闘中!
赤ちゃんと暮らす何気ないイスラエルの日常をお届け出来ればと思います。
ユダヤ教の食物規定コシェル
ヒンズー教やイスラム教の食物規定のように、ユダヤ教の「食べても良いもの・ダメなもの」の決まりがあり、それを「コシェル」と呼びます。
コーシャー、カシェル、カシェルートなどカナ表記は様々ですが…ここでは「コシェル」で説明しますね。(イスラエルって単語一つシンプルな説明にならない。笑)
日本の友人にコシェルの話をすると、「豚もエビもうなぎもだめ?チーズバーガーがない??食べられない決まりがあるなんてしんどい!」と言われます。笑
でも、日本人の私たちも、土足で畳に上がらないとか、皿洗いは泡をゆすぐとか、お皿は持ってたべるとか、肘をついて食べないとか、音を立てない〜箸の持ち方〜魚の食べ方〜と、言い出すとキリがないほど無意識のマナーや決まりがありますよね?
きっとそんな感覚で、本人たちにはいたって普通のこと。
宗教的でない人たちでも、「そのほうが気持ちいいから。」と守っている人がいて妙に納得しました。
私の「和食にタイ米は無理」と言う自分ルールも、こちらではあまり理解されない。笑
何が違うの?とか言われてこだわり強すぎの人と見られます。(全然違いますよね!)
国が違えば価値観も感覚も違う!で、そこが面白い。
特に、食事のマナーや決まりにはその国特有の興味深い文化がいっぱい!というわけでコシェルを紹介します。
私のコシェル体験
あるユダヤ教のラビ(ユダヤ教の教師)
私が初めてコシェルと出会ったのは、あるユダヤ教のラビを日本に招待した時。
私たちは複雑なユダヤの食物規定がわからず、彼の食事には何かと苦労し失敗しました…
今となってはありえないのですが、私たちの失敗によって、ルールをいくつか破らせてしまったのに、彼は嫌な顔一つせず「ベストを尽くそうと努力することが大切。たとえうまくいかなかったとしても」と努力した我々に感謝し、にこやかに微笑んでいました。
ルールを粗末にするのでもなく、ルールだからと融通が利かない訳でもなく、敬虔に、謙遜に最善を尽くす姿勢。
しかも周囲の人を嫌な気分にさせない…なんと立派な人だろうと感銘を受けました。
ある金曜日、ラビが「一緒にシャバットの夕食をしないか?」と誘ってくれました。(シャバットってなに?)
シャバットの儀式に欠かせない”ぶどう酒”を用意したのですが、私たちの中にお酒の苦手な人がいることを知ると、「100%のブドウジュースを買いに行こう!」とお願いされました。
ところが行ったお店に100%ブドウジュースが無い。ウエ◯ルチとか何かしらはあると思ったのに、なぜか他のお店に行ってもない…
しかたなく果汁3%のぶどう味のジュースを買うのかな、と思ったのですが、ラビが買ったのは100%オレンジジュースでした。
彼は聖書の定める「コシェル」や「規定」の深い意味を考え、その核となるもの「神の言葉への真摯な心」を守っているのであって、盲目的にルールを守っているのではない!という姿勢に感動したのを覚えています。
ヘブライ大学の学生
イスラエルに来て数年した頃、学生たちを招いて、日本食パーティーをすることにしました。30人近く招待したのですが、ヘブライ大学は世俗的な大学なので大丈夫だろうと甘くみていたら…
・どこで買ったものかが知りたい(コシェルの店かどうか)
・紙皿と紙コップが必要(厳格な家庭は食器にもコシェルがある)
・何も食べないけど行ってもいいか(さらに厳格な方は外国人の作るものを食べない!)
などなどなど…
もちろん全く何も気にしない人もいるので千差万別。完璧なおもてなしはレベルが高すぎて不可能でした。笑
しかし、集まった全員が本当に満足そうに楽しんでいました。
それぞれ、食べれるものを食べたり、食べなかったりしながら…
ザックリルール説明
細かく言い出すとキリがなさすぎて私もわからないので、大まかなコシェルを説明します。
動物の屠殺方法
聖書の規定通りであるか?ということなのですが、基本的に「苦しませない屠殺方法」であり、その飼育方法についても動物にとって良いものであるかどうかのチェックがあります。
また、「命は血にある」とされ、血を飲むことはタブー。
血抜きは徹底して行われます。(だからイスラエルの肉はちょっと肉硬いよ。)
食べられるもの
反芻して(羊みたいにいつもモグモグしてる動物)なおかつ蹄が割れてる動物は食べられます。
豚は蹄が割れているけど反芻しないからNGなんですね〜。(あ…ルール上キリンは良さそうだな。)
海のものはヒレと鱗のあるものはOK。イカ・タコ・エビ系はダメです〜
※イスラエルは空前の寿司ブームですが、コシェルで食べられる魚は限られています。ネタの数が少ないのはそのせい。一般にはサーモンとマグロとアボカドだけが主流です。
乳製品と肉
聖書には「母親のミルクでその子を煮てはならない。」とあります。
聖書は動物に対しても憐れみの心を持ち、必要以上に苦しめたり殺したりしないよう教えるのですが、これを徹底的に守ると決めた彼らは、ミルクと肉が絶対出会わないよう(たとえお腹の中でも!)様々なルールを守っています。
例えば、レストランは乳製品を扱う店(ハラビー)と、肉料理を出す店(バッサリー)で分かれます。肉の出てくるお店では食後にコーヒーを頼んでもミルクは付きません。
バターで肉をソテーしませんし、クリームシチューに肉は入りません。ラザニアもチーズバーガーもピザのサラミもコシェルではNG。
家庭によっては食器にも肉用、ミルク用があって、シンクも2つ、冷蔵庫も保管庫も分かれていたりします。
スーパーでも肉コーナーと乳製品コーナーはしっかり離れて設置され、ホテルでも朝のバイキングは乳製品、夜のバイキングは肉料理と分かれているんです。
もちろんどこまで徹底的にするのかは人によるので、なんとも言えません。
コシェルにもランクがあり、より宗教的なコシェルから、ゆるいコシェルまで、マークによって分かれていたりします。
イスラエルのコシェル普及率
イスラエル紙Ynetによると、ユダヤ教ではない世俗的なユダヤ人の40%がコシェルを守っている、とあります。すでに文化として浸透しているのは体感でも感じます。
街のレストランやカフェ、シュックの各商店にも、「コシェル」の認定証書があったり、
食事に行く時や、友人を招く時には「今日はハラビーにする?バッサリー?」と最初に確認したり。
関係していると思うのですが、イスラエル人は食についてしっかり考えていて、食と命の教育水準が高いという印象があります。
(でも食べ残したり、こぼしたりはするから日本の食育とは少し違う。笑)
ある友人のお宅では、お父さんは確信を持ってコシェルを守らないユダヤ人、お姉ちゃんはビーガン、弟はベジタリアン。と、家庭内でもそれぞれの価値観を尊重しあっています。(お母さん大変…)
なんとビーガンは5%ほどいるそうです。やたら多いと思った!
ある人は、「イスラエルは草食動物の楽園。世界一ビーガンに優しい国!」と称していました。
食べられないものが多いのは辛い?
規則やルールだから守るのではなく、命について、信仰について、真剣に向き合ってきたからこその食物規定。この国でコシェルを知ってから、窮屈に思ったことは一度もありません。
むしろ、自分の「食」についても考える良い機会になり、肉を調理するときなどは「命」を意識するようになりました。
人間の贅沢の為に、機械的に飼育・屠殺される大量生産の仕組みについてコシェルは語っています。
それは「かわいそう」とか「動物愛護」ということよりも、命に対する感謝と責任。
食に対する本当の喜びと、この世界の秩序と摂理に目を向けることのように感じます。
具体的に禁止されていることで意識が変わり、食事が一層感謝と喜びに満ちたものになるから不思議。
また、コシェルの食文化は、意外にも豊かで独創的!!毎回驚きます。
イスラエルの食卓には制限があるとは思えない幸せと笑顔が溢れています。
美味しく食べよう!という試行錯誤は凄まじく、そこには「窮屈な決まり」を感じさせません。ビーガンも、ベジタリアンも、アレルギー持ちも、宗教者もそうでない人も、みんなが楽しめる「幸せな食」がこの国にはあり、むしろより自由度が高いと感じます。
そこがすごい。
以前は「ルール」と聞くと「拘束」という息苦しさを感じていたのですが、この国ではむしろもっと自由で、優しく、心地の良い響きを感じるようになりました。
コシェル食品は健康で安全?
さて、なぜかこんな誤解が一部の日本人にはあるようで首を傾げました。
「コシェルだから健康」は、「日本人は細い=日本食は痩せる=寿司はダイエット食」と思っているイスラエル人に会った時と同じ衝撃。(寿司は太るよ)笑
コシェルにもランクがあり、動物の飼育環境もコシェルだからと言って良いとは限りません。農薬たっぷり使っているものもありますし、添加物や砂糖、油がたっぷりの加工食品もあります。そして、肉料理と乳製品が一緒に食べられないので、スイーツは乳製品の代用品を好んで使用し、食物油脂やマーガリンは多いです。
また、農業先進国のイスラエルでは、遺伝子組み換えなどの研究も進んでいて、肯定的です。
食のこだわりが多様すぎるこの国では、「自分で考えて、自分で選ぶ」という自由度が高く、意識高い人も、低い人も不自由しません。そういう意味では健康的に生きることが容易い国であることは間違いないと思います。
最後に・・・
イスラエルで売られている日本のお醤油にも「コーシャ認定食品」の表記が!!
(…イスラエル人読めないと思うけど)